lacrimosa
解らない。
心当たりがない。
バスチアンはいつも笑っていて、自分のことが好きで。絵が好きで…―――
思えばそれ以外のことは何一つ知らなかった。
自分が仕事をしている間何をしているのかも、何を思って過ごしているのかも。
(…弟なのに、わかってやれてなかった)
「バスチアン…」
そっと、その寝顔にキスをした。
頬ではなく口にした。
何故、そうしたのか自分でも理解できなかった。ただやり場のない思いをどこへやったらいいのかわからなかったのだ。
「ごめん」
わかってやれていなくて。
今まで自分はバスチアンを何だと捉えていたのだろうか。
管轄内にいる所有物だとでも思って安心していた…?
全てをわかっているとでも思っていた?
(…バカだな、俺)
バスチアンはただ何も、言わないだけだったのに。