縁隔操作(えんかくそうさ)
 そこから駅に向かって霞ヶ浦の岸辺に来た時、ユリアがふっとつぶやいた。
「いいなあ。結婚かあ。わたしには縁のない事だし。あ、でもアキトさんはいつかは結婚するんだから、見て損はなかったですね。お相手がお隣の子だったら言う事なしでしょ?」
 俺は立ち止ってあわてて言った。
「いや、ユリアさんだって分かんないじゃないですか、そんな事。ほら、GPS細胞の研究だって進んでいるっていうじゃないですか。外国じゃ麻痺が治ったって例もあるって、この前なんかのニュースで言ってたし」
「はい?……あの……ひょっとしてiPS細胞の事ですか?iPS細胞での再生治療の事でしょうか?」
「へ?アイピーエス……そうだっけ?あ、いや、とにかくそれっス。だからですね、いつかはユリアさんだって普通に動ける体になるかもしれないでしょ。そんな風に考えちゃもったいないっスよ。けっこうナイスバディなんスから」
「あのう……これはユリアというロボットのボディなんだから、わたしを誉めていることにはならないんですけど……」
「え!あ、そうか、しまった」
「そ、れ、に!」
 急にユリアの顔がぐいっと俺の顔に近づいて来た。
「今までユリアのボディをそんな目で見ていたという事ですね!」
「え?あ、いや、それは……いや、そんなつもりは、だから、その……」
「あはは、冗談ですよ!もう、このエッチ!」
 笑い声と共にユリアの手が俺の肩をパンと叩いた。そして俺の体は次の瞬間、高さにして2メートル、距離にして5メートルほど宙を飛んだ。落下していく俺の足の下には、霞ヶ浦の水面……派手な水しぶきを上げて俺の体は腰まで水の中に落ちた。
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