妹神(をなりがみ)
「そそ。分かってくれる?」
「嫌だって言うわけにゃいかないだろ。いや正直驚きの連続でまだ頭が混乱してるけどな……とにかく美紅ちゃん、これからよろしくな」
 美紅はぺこりと頭を下げてこう言った。
「こちらこそよろしくです、ニーニ。」
「ニーニ?ああ、兄さんて意味か。あ、そうだ、君、学校で最初に会った時俺の事を『えけり』って呼んだよな?あれはどういう意味の言葉なんだ?」
「ニーニはあたしの『えけり』、あたしはニーニの『をなり』。古い琉球の言葉で兄と妹という意味」
「ま、また新しい単語かよ。でもなんであの時はニーニじゃなかったんだ?」
 そこへ母ちゃんが強引に割り込んで来た。まるで美紅にそれ以上しゃべらせないようにするみたいで、なんか不自然だったが。
「ああ、あのね……沖縄にはノロとかユタとかではない普通の女でも、家族の男を災厄から守る霊的な力があるという言い伝えがあるの。をなり神と言うのよ」
「オナリガミ?」
「まあ漢字で書けばこうね」
 と言って母ちゃんはその辺にあった新聞チラシの裏にサインペンでこう書いた。
 『妹神』。そしてその横に『をなりがみ』と振り仮名を打った。
「特に妹が兄を守る力はとても強いという信仰があるのよ。昔兄と妹の二人の神が沖縄にやって来て、その兄妹が琉球人の祖先だという神話があるから、らしいのね。そういう霊力で守り守られる関係にある兄を『えけり』、妹の方を『をなり』と呼ぶの。この子ものごころつかないうちからお婆ちゃんにユタの修行をさせられてきたから、そういう古い言葉が出ちゃったんじゃない。ほら、この子だってこの年になって初めて生き別れになってた兄さんに会ったわけでしょ。きっと緊張してたのよ」
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