妹神(をなりがみ)
 無愛想というのとは違うが、美紅は本当に表情の変化が乏しい。笑いもしなければ泣きもしないし、学校でも人と話しているのを見たことがない。まあ、これは転校してすぐで知り合いがまだ少ないからだろうが。ひょっとして絹子はその辺を気遣っているのか?
 こいつ男勝りで口は悪いが、根はけっこういい奴で意外と世話好きなところもあるからな。もっとも美紅をペットみたいに思っているんじゃないかというフシもあるが。
 さてもう六月も中旬なのでプールはとっくに開いているのだが、その日の授業は女子だけ水泳。男子はこの蒸し暑い中、陸上それも中距離走。なぜかうちの学校、水泳の授業だけは男女別々なんだ。
 その日の昼休み、絹子が俺を図書館につながる板張りの渡り廊下に呼び出した。先が図書館だけあって滅多に人が通らない場所なんだな、俺の学校では。
「で何の用だ?俺としては校庭の隅の伝説の木の下に呼ばれたかったんだが」
「あんた、絶対そのうち携帯ゲーム機持って、熱海の旅館に二人部屋予約して、二人分の布団敷いた部屋に一人で泊まりに行くわね」
「なんだ、愛の告白じゃないのか?」
 すると絹子のやつ、いきなり板張りの上に正座して両手をそろえて板につけた。ちょっと待て!つい最近似たような目に遭ったような気がしてきたぞ。
 絹子はその姿勢から上目遣いに俺の顔を見つめて、猫なで声で言う。
「お兄さん、お願いがあります!」
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