妹神(をなりがみ)
 今俺は東京二十三区の東の端に近い所で母親と二人で暮らしている。この母ちゃん、一応大学の助教授。専門は宗教民俗学とか言ったっけ?なんかマニアックで俺には理解不能なムズイ学問らしい。
 親父はいない。父親も民俗学者だったが、俺が五歳の時に調査に行った先で崖から転落して死んでしまったんだそうだ。だからうちは世間で言う母子家庭ってやつ。まあ、母ちゃんの給料はそこそこいいから生活に不自由はしてないけどな。
 おっと、肝心な事を忘れてた。俺の名前は遠野雄二。母ちゃんは遠野美紀子。俺自身は学校の成績は中ぐらいのごく普通の中学三年生。もっかの悩みは彼女が出来ない事と受験。誰に似たのか、俺はあんまり頭良くないんだよな。
 俺がトーストをかじりながらテレビのニュースを見ていると、母ちゃんがコーヒーメーカーの容器を持ったまま、食い入るようにテレビの画面をのぞきこんできた。なんか、変に真剣な目つきをしている。
「母さん、何をそんなに真剣な顔して見てんだよ?」
「これ、例の事件の三件目よね?被害者の名前言ってた?」
 俺はちょっと考えて答えた。
「いや……東京近郊の中学三年生としか言ってなかったと思うけど。未成年だから名前伏せてんだろ」
 母ちゃんは「そう」と言ったきり、黙り込んでしまった
「なに、母さん、犯罪プロファイリングにでも転職すんの?俺としちゃそっちの方が世間受けがよくなって助かるんだけどな」
 母ちゃんは俺の頭をこぶしでこつんとたたいて言った。
「ナマ言ってんじゃないの。それよりさっさとご飯食べなさい。片付かないでしょ」
 へいへい。俺は残りのトーストをコーヒーで流し込むと鞄をつかんで玄関に向かった。
「じゃあ、お勤めに行ってめえりやーす」
 靴を履いている俺の背中に母ちゃんが声をかけた。
「ああ、今夜はあたし帰りが遅くなると思うから。悪いけど夕飯はどっかその辺で済ましてくれる?」
「了解。じゃあ、行って来まーす」
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