妹神(をなりがみ)
 俺は二階に上がり、隆平の部屋のドアを叩きながら声をかけた。
「隆平!雄二だ。遠野雄二だ。俺を覚えてるか?開けてくれないか?」
 するとドアの向こうでカチャッという音がしてドアがほんの少しだけ開いた。その隙間から、あの頃の面影のある顔が見えた。俺だと分かると隆平は俺の腕をつかんで引きずり込むようにして中に入れ、それからすぐにドアのカギをかけた。そして振り返った隆平の顔を見て俺は愕然とした。
 なんてやつれ方だ!隆平のお母さんも相当ひどかったが、隆平自身はもっとひどかった。まるで骨と皮のように痩せこけて、髪はバサバサ、全身から嫌な臭いがしていた。外出どころか風呂にもろくに入ってないんだろうな。そのくせ、目だけが獣のようにギラギラ光っている。
「雄二……おまえはまだ無事なんだな?」
 そういう隆平の声には、何か感情が欠落したような響きがある。もう気が狂いかけているんじゃないか、そんな心配を感じるほどだ。
 無理もない。小六の時の仲間が次々に無残な殺され方をして、その原因をこいつは知っていたんだから。いくら小学生のガキの悪ふざけの結果とはいえ、純が自殺した原因が自分たちだった事実も隆平は知っていたはずだ。
 俺と違ってこいつにはそれなりに罪の意識もあったのかもしれない。その純の幽霊が今頃になって復讐に現れた。そして自分の順番が少しずつ迫って来る。精神的に耐えられなくなって当然だ。
 隆平の最近の様子はおばさんから大体聞いていたから、俺はなんとか隆平を興奮させないように慎重に言葉を選びながら言った。
「いいか、隆平。落ち着いてよく聞いてくれ。俺が今日来たのはおまえを守るためだ。純の幽霊におまえが殺されるのを防ぐためだ」
「そ、そんな事が!」
< 58 / 128 >

この作品をシェア

pagetop