-恋花火-
花火大会はとっくに終わった10時。

私は、祥ちゃんと歩いていた。

私から抱きついたりすることだってあったのに、なぜか今は、この距離でも緊張する。

涼しい風の通る川辺を並んで歩く。


「今日さ、及川先輩に言われたんだ」

「…なんて?」

「結芽をもてあそぶなってさ」

「ええ!?センパイってば、そんなこと言ったの!?」


祥ちゃんが立ち止まって、ベンチに腰を下ろした。

だから、自然と私もその隣に座る。


「別に、もてあそんでるつもりはなかったんだけど…」


もてあそぶ、というか、軽くあしらわれてる気がする…。

でも、それはそれで夢中になってた。

楽しいからいいかって思ってた。


「結芽は、何てゆーか…妹みたいに思ってんだよ」

「知ってる。何回“好きだよ”って言っても、祥ちゃんはスルーするんだもん」


“はいはい”って。

“また言ってる”って。


「でもさ…」


祥ちゃんは続けた。


「妹みたいにかわいいと思ってたから、いざ他の男に取られると思ったら、居ても立ってもいられなくなった」

「…それって…」

「結芽のことが好きだよ、ずっと前から。物心ついたころから」


祥ちゃんはまだ目を見てくれなかったけど、その言葉は真実だと思う。

祥ちゃんがウソをついたことなんて、一度もないことを知ってるから。


「祥ちゃん」

「なに」

「私も好きだよ?」

「知ってるし」

「もぉ~っ!!」


じゃれあいながら、線香花火に火をつけた。

一瞬で終わる打ち上げ花火よりも、じっと温めていく、シンプルな花火のほうが好き。

金色に輝く花火が静かに消えたあと。

誰よりもやさしいキスをした。



【end】


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