甘い毒
舞う鱗紛

―逃げるものを追いかけるなんて、めんどくせぇ。

だから、お前が逃げてくなら、それはそれでいいと思ってた。


机に置きっぱなしにしといた、携帯の着信ランプが点滅している。

ミネラルウォーターを飲みながら開いた画面に、メールマーク。


「…もしもし?ん、風呂入ってた!あー、オッケー。すぐ行く。」


面倒臭いから電話にすると、相手は甲高い声で“会いたいなー”と言った。

特に用事もなく暇だったし、二つ返事で電話を切る。


そう言えば、あいつは一度も自分から“会いたい”とは言わなかったな…


「…らしくねー。」


そんな風に思う自分が、何と無く理解できずにいる俺。

間違えだらけの、俺。
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