堕天~追放への序章~
小さな出会い
小さな子供の泣き声がする。
普段なら、気にもとめず、通りすぎるのだが、この日だけは、立ち寄りたい気分になった。

そんな自分が、可笑しく思えたが、今日はそれでよかった。
だだっ広いこの世界で、隠れる場所は植物の陰くらいだろう。そう思い、木陰を覗いてみると、案の定、銀髪の女の子が泣いていた。

「どうしたの?」

声をかけてみるが、泣き続けている。
ちょっと困ったが、とりあえず、隣に座り込んだ。

すると、やっと少女が顔を上げた。くりくりとした目は、アメジスト色をし、瞼はしっかり、腫れ上がっている。

「なんで、そんなに泣いているのかな?美人さんが、台なしだよ」

自分でも、呆れるほどの軽い言葉が、ポロリとこぼれる。

「ムー、へんって…。だから、あそばないって…」

しゃくりをあげながら、必死に答えている。
これはこれで、子供らしくかわいらしいのだが、『へん』の意味がわからず、首を傾げる。

「ムー。はねがないの。だから、へんなの」

言い終えると、大声で泣き出した。
よしよし、と背中を撫でながら、改めて、背後を確認するが、やはり有るべきものがない。

この世界の住人である証明のような、白い翼は存在していなかった。

「名前は、ムー?」
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