冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ま、待てー!!!

 カイトは、慌てて視線でハルコを追った。

 彼女は数歩更に進んで、カイトより低いところに行ってしまったのだ。

「あ、待って!」

 それを言葉で言ったのは、メイの方だった。

 彼女もさっき、「えっ?」を言った人間だったのである。

 どういう意味を含めたかは、彼の知るところではなかったが。

 足を止めたハルコは、途中にいる家主と、一番上にいるメイに視線を上げた。

「待って…行かないで…くださ…」

 不安そうな声が、ハルコにすがる。

 ムッ。

 カイトは面白くなかった。

 メイが、彼女のことを頼っているように聞こえたからだ。

 声が、彼の頭を素通りする。

「また明日来るから大丈夫よ…」

 にっこり。

 すがられた言葉にも、惑わされる様子は全然なかった。

 明日じゃ、おせーんだよ!!

 何ということを言うのか、この女は。

 カイトは、目ん玉をひんむいた。

 いまはもう夜なのだ。夜である。夜だ。とにかく、夜だった。

 その夜とやらに、メイと2人きりなのは―― ぜってー、ヤバイ!

 ついさっき、自分の中を硬直させた稲妻みたいなものを、カイトは何より恐れていた。

 こんなに自分が、アテにならないものだとは思ってもみなかった。

 明日の朝、ハルコが来る頃には。

 また自分の感覚が、とてつもない状態に変化しているんじゃないかと思うと、ゾッとする。

 何で、たかが女1人と夜を越すだけのことで、ここまで怖がらなければならないのか―― 信じられなさすぎる。

「食事の支度はしているわ…どうぞ、お二人で」

 次の言葉は、カイトに向けられたものだった。

 この事態を前にして、ご飯の話など悠長にできるはずがないのに。

 ん?

 さっきの言葉が、ひっかかった。
< 100 / 911 >

この作品をシェア

pagetop