冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 一歩。

 階段を下りてくる音がした。

 さっきまでとは、比べモノにならないくらいゆっくりとした一歩だった。

 メイは、唇を噛んで下を向いた。

 もう一歩、降りてくる。

 また一歩。

 それから一歩。

 そうしてもう一歩。

 一歩。

 それが、十回ほど続いた後。

 うつむいたメイの視界――すぐ上の段に、裸足の指が見えた。
 男の足だった。固そうな親指の爪。

 ぐいっ。

 片方の腕を取られる。

 抵抗なんか出来るハズがない。

 メイは、その手にシャツをさげたまま、前に手を持ってこさせられたのだ。

 きっと、ハナからバレていただろう。

 顔が上げられない。

 片腕を取られたまま、止まったままの時間。

 お願い…。

 メイは、ようやく心にそれが流れた。

 お願い…怒鳴ってもいいから…怒ってもいいから…

 きらわな……!

 震えかけたメイの瞼が、驚きに見開かれた。

 腕が。

 彼女の腕が、引かれたのだ。

 怒鳴り声はなかった。

 ただ、食堂に連れて行く時のように、掴んだ腕を放さずに引っ張っていくのだ。

 間に、シャツをぶら下げたまま。

 顔を上げた。

 ストライプのパジャマの背中だった。

 その背中を――苦しいくらい抱きしめたかった。

 ぎゅうっと抱きしめて、この溢れて止まらない火を、『好き』という言葉に代えてしまいたかった。

 彼の背中を見ていると、思いが止められない。
 心のドアが閉められない。

 でも、出来るハズもなくて。

 メイは、ただぐいぐいと彼に引っ張られて行くだけだった。
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