冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「し……失礼します」

 ボックス席で一息ついていたカイトの耳に、周囲の雑音にかき消されそうになりながらも、そういう声が聞こえた。

 ん?

 片方の眉だけを上げるようにしながら、そっちを見やる。

 席の入り口に、女が一人立っていた。

 そうなのだ。

 ここは、ランパブ。

 一人で酒を飲むところではない。

 カイトだって、よく行くワケではなかった。

 ただ、こういう背広仕事をした日は、ウサ晴らしに来るのである。

 あいにく彼の相方は、こういう夜のお遊びを快く思っていないおカタイタイプなので、さっさと一人で先に家に帰ってしまったが。

 だから、カイト一人、このボックスにいるというワケである。

 女の指名は、しなかった。

『うるさくねーヤツ』

 それだけ。

 カイトは、無言でやってきた彼女を見ていた。

 ランパブなのだ。

 あざとい下着姿の彼女は、おずおずとボックスの中に入ってきて、ぎこちなくカイトの隣に座った。

 ???

 カイトは眉を顰めた。

 いつもと雲行きが違ったからである。

 ワゴンの上の水割りを作る道具が、ウェイターの手によってテーブルの上に並べられる間、隣の女はずっと黙ったっきりだった。

 ウェイターが去った後、カイトはようやく横を向いた。

 ホステスをちゃんと見ようとしたのである。

 しかし。

 彼女は肩を震わせたまま、うつむいていたのである。

「おい」

 カイトは声をかけた。
 何をやっているのか分からなかったのだ。

 ビクッッ。

 しかし、その声に肩が更に震えて――それから、ようやくおずおずと顔を上げてきたのだ。

 でっかいチョコレート色の目が、不安に揺れながらカイトを見た。

 しかし、彼のグレイの目を見たワケじゃない。

 目は目でも、緩められたネクタイの結び目辺りだ。
 そこから上に、視線は上がってこなかった。

 似合わないくらいケバイ化粧だ。
 目の上のアイシャドーの青など、全然似合っていない。

 真っ赤な口紅も。

 ちょいとクセ毛だが、素のままの黒髪の方が、よっぽど綺麗だ。
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