冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトは、いままで仕事で本当にうまくやってきた。

 全てが順風満帆、という意味ではない。

 会社の危機なんか山ほどあった。
 それを、全部乗り越えて立ち回ってきたのだ。

 女一人に、思いくらい隠せないでどうするのか。

 だから、絶対にうまくやれる、と心の中で繰り返す。

 そうしないと、彼女を側に置いておけないのだ。
 自分に言い聞かせながら決着をつけたが、ついていないものもある。

 目の前の、落ち込んでいるメイだ。

 彼女は、まださっきの言葉に振り回されているようだった。

 あんなに楽しそうに朝食を作っていたのに。

 静かだけれども、居心地悪いような、いいような朝食の時間だったというのに、全て台無しである。

 心の中でシュウを蹴飛ばしまくっても、彼女の心を元に戻すことは出来ない。

 クソッ。

 カイトは、シワのない左脳を振り回して言葉を探した。

 しかし、出てくるものはガラクタばかりだ。
 使えそうなものは、一つもない。

 食事の続きも出来ないまま、イラ立った挙げ句、カイトは吠えてしまいそうだった。

 それを、ぐぐぐ、とこらえる。

 ガラクタな言葉は、どうパズルしてもガラクタだった。

 ただ、元々のどうしようもないガラクタに比べて、少しはマシなガラクタになることがあるのだ。

 カイトは、唸りながら廃材の山を組み立て始めた。

「うー…そういう…意味じゃねぇ」

 思えば、随分長い沈黙を間に挟んでいた。

 シュウが出ていって、かれこれ数分間はいたたまれない沈黙を作っていたのだ。

 メイは立ったまま。
 カイトはオムレツの前に座ったまま。

 その長い沈黙のせいで、ようやく出した言葉は、的を失った矢のようにふらふらとさまようだけだった。

 彼女は沈黙のまま。

 きっとまだ、彼のために朝食を用意したことか、もしくは用意が遅かったことのどちらかを、悔やんでいるに違いない。

 早起きなんかしなくていい!
 朝メシなんか作らなくていい!

 けれども、それがカイトのためだというのなら――
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