冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 時計は時計らしく、正しく時を刻めばいいのだ。

 悪態をつくが、時計はちゃんと正しく時を刻んでいる。濡れ衣だった。

 カイトは、置き時計とパソコンの時計を見比べて、更に腹を立てるだけだ。

 パソコンの時計の方が少し遅れているくらいで、どちらもほぼ変わらない時間を告げていたのだから。

 2分経過。

 こらえきれずに立ち上がる。

 そのままトイレに行き、次に洗面所で顔をジャバジャバと洗う。
 ついでに歯も磨いた。

 そこらの引き出しを開けて、適当にシャツと別のジーンズを引っぱり出して着替えた。

 終始仏頂面のまま、自分が何をいまやっているのか絶対に考えないように、思考をブロックしたままの行動だった。

 思考が働き出すと、絶対に自分とケンカをしなければならないだろうことが分かってきたからである。

 全部終わって時計のところに戻って来ると、12時8分過ぎだった。

 じっと待っているよりは、有意義な時間だったようだ。

 カイトは、もう椅子には座らずに部屋を出た。

 廊下を歩く、階段を降りる。
 左に曲がってダイニングの方へと向かう。

 足音は静かに。

 しかし、もう分かっていた。

 廊下まで匂ってくるのである。
 どう考えても、みそ汁だけとは思えない料理の香りが。

 あんにゃろう。

 カイトは、半目になった。

 昨日の彼のセリフを、ちゃんと聞いていたのだろうか。

 あんな、言いたくないようなセリフまで言わされたというのに。

 そこからは、もう足音は静かになんて言ってられなくなった。

 ダンダンと力強く踏みしめて、ダイニングの扉をバン、と開けたのである。

「あっ!」

 しかし。

 ドアを開けるなり、席に座っていた彼女はぴょんと立ち上がったのだ。

 ぱっと晴れやかな笑顔で―― 本当に嬉しそうに。

 見えない壁にぶつかったカイトは、急停止してしまった。
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