冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 背中を向けて、ダイニングに向かおうとする身体。

 あとちょっとだけ足を前に動かして、その背中を抱きしめて。

 そうだ。

 抱きしめたいのだ。

 彼女をいますぐ抱きしめて、『バカ野郎…』と。そう言いたかった。

 夕食なんかどうでもよかった。

「今日は、グリルチキンです。カレー味ですよ」

 なのに。

 振り返えらずに言う彼女の言葉は、抱きしめる相手に向けられるものではなかった。

 カレーで喜ぶ子供に向ける―― まるで保育園児にでもさせられた気分である。

 カレーなんか!

 そんなもんより!

 怒鳴ろうとする塊が、喉のすぐ入口までこみ上げてきた。

 なのに、身体が裏切ったのだ。

 グゥ。

 彼の気持ちなど考えずに、腹が鳴った。

 最悪だった。
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