冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 距離が短くなっていくにつれ、だんだんと輪郭がはっきりしてくる。

 彼は横を向いて眠っていた。
 顔の向いている方に回って、覗き込む。

 ドキン。

 毎朝、この距離になると胸がドキドキする。

 起こすのをためらう瞬間でもあった。

 こげ茶の髪は、横を向いているせいで流れ気味に逆立っていて、薄く開いた唇が、呼吸を繰り返している。

 ゆるやかに閉じられているまぶたは、しかし、ぴくりともする様子はなかった。

 ぐっすり眠っているようである。

 はっ。

 思い切り見とれてしまっていたメイは、ようやく我に返った。

 彼が寒くなく会社に行けるかもしれないのに、それを無駄にしてしまいそうになったのだ。

 でも…どうしよう。

 こんなにぐっすり眠っているのに起こすのは忍びなかった。

 やっぱり、いつも通りの時間に起こそうかな。

 結局、それ以上強気になれずに部屋を出て行こうかと思った。

「……!」

 しかし、驚いて動きを止める。

 ぱちっと――目が開いたのだ。何の前触れもなく。

 あ。

 ど、ど、ど、どうしようー!!!!

 まさか、こんなことになるなんて思っていなくて、パニックになった。

 せっかく心で決着しかけた予定が、いきなり狂ってしまったのである。

 混乱したままでいると、カイトは何度か瞬きをした。

 それから、焦点を合わせるように目を細めたのだ。

「あ…おはようございます」

 相手が起きてしまってはしょうがない。

 とりあえず、朝の挨拶にかかる。

 布団の中から手が出てきて、自分の顔を一度強くなでる動きをした。

 それから、ギシッとベッドをきしませる。

 身体をよじって、枕元の時計を見たのだ。

 ああー。

 穴があったら入りたかった。

 不審に思うのは間違いないかった。
< 529 / 911 >

この作品をシェア

pagetop