冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 しかし、同時にハルコの訪問も許すことになる。

 厄介なソウマ夫婦の片割れが来るのは、全然ありがたいことではないのだが、メイを休ませるために来るという大義名分があるのだ。

 拒めそうになかった。

 もし拒めば、彼女に休むな、と言っているようなものである。

「好きにすりゃあいい…」

 言ってしまって、失敗したと思った。

 ハルコが来ることへの不満があったために、一歩間違えればなげやりとも思える言葉になってしまったのだ。

 慌てて視線だけで、彼女の反応を見る。

 紅茶を持っているカップの手が少し止まった。
 いまの言葉について考えているようだ。

「お茶でも何でもしろ」

 先にフォローを言ったが、これもいい表現ではない。

 どうして、自分の口はこんな風にしか言えないのか。

『オレに、いちいち許可を取るな』―― これも違う。

『自分のやりたいようにしろ』―― これも。

 頭の中にある語句を拾っていく度に、カイトは眉を顰めた。

 ロクな表現が格納されていなかったのだ。

 ソウマなら、『お茶か、それはいい…オレも入れてもらおう』、くらいのことを言って、彼女の気持ちを柔らかくできるに違いなかった。

 しかし、そんなことは口が裂けても言うことが出来ない。

 メイの視線が、彼の方を向いた。

 いまのカイトの気持ちを探すかのようだ。

 自分では、彼女の気持ち一つやわらげることが出来ない。

 それがもどかしかった。

「あの…ちゃんとご飯の支度は…」

 快く思っていないと判断されたのだろうか。

 きちんと仕事はしますから、みたいな表現が出てきて、カイトはぱっと表情を曇らせた。
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