冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 あのカイトが、失敗をすることもあるのだと。

 その失敗の一つが、昨日のハンバーグだった。

 パーフェクトな人間なんか、いないのは知っている。

 でも、カイトはあの若さで社長だし、パソコンはバリバリみたいだし―― 何でも出来るのではないかと、錯覚しそうになる。

 けれども、食事の時に服も汚すし、お皿は洗っても綺麗におちてない。
 トレーナーは後ろ前、おかずは落とす。

 日常的な部分では、全然パーフェクトではなかった。

 それがすごく嬉しい。

 可愛いなんて言ったら、怒鳴られるでは済まないかもしれないが、その言葉が意識の中をちらつく。

 パーフェクトではない部分が見える度に。

 そんなところが、きっとソウマやハルコにはもっと見えているのだ。

 だから、あんな風に彼をからかうのである。

 怒鳴る言葉の裏の優しさ。

 態度も荒いけど、それは彼女をないがしろにしているものなんかじゃ全然ない。

 分かりにくい葉っぱの陰に、たくさんの気持ちが詰まっている。
 いつも裏返してみないと分からないのだ。

 もしも、彼女の勤めている会社にああいう社長がいたら。

 ふっと、そんな風に空想した。

 きっとメイは会社でたくさんの失敗をするから、カイトに怒鳴られるだろう。
 大きな会社だったら、怒鳴ってももらえないかもしれない。

 最初は、とっても怖い人なんだと思って。

 でも、何かのはずみに、ぶっきらぼうな優しさに触れて、きっと――

 な、何を考えてるの!

 かぁっと顔が熱くなる。

 布団の中で、ジタバタと暴れてしまった。

 記憶が巡るだけならまだしも、空想にまで発展してしまったのだ。

 これでは、まるで中高生のようである。
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