冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あいつがパーティに…」

 信じられん、とソウマは顔を押さえた。
 笑おうとするのを、止められないかのようだ。

「そうなのよ…私も、本当にあんなにうまく行くとは思ってなくて」

 あの着飾る服を買うお金を、バンと出した時、ハルコは本当は分かっていた。

 彼はパーティに行きたいわけではないのだが、メイを着飾らせることには賛成だったのだ。

 要するに。

 きれいに着飾っている彼女を見たいのだ。

 ああもう。

 前日からか、もしくは当日の朝一番に、メイをうちへの手伝いと称して拉致しようかと考え始める。

 そうすれば、彼女に会えないことでカイトはきっと激しく苛立つだろう。

 絶対に、パーティをすっぽかしたりもしないだろう。

 すごい顔をしてやってくるに違いなかった。

 そんなカイトの前に、磨き上げたメイを連れていくのだ―― 想像するだけで、ゾクゾクした。

 楽しすぎる計画である。

 それを夫に話すと、彼はついに声を出して笑い始めた。

「まったく…味方なんだか敵なんだか分からないな、おまえは…まあ、カイトにとっちゃ、間違いなく第一の敵だろうが」

 笑いの影から、そんな失礼なことを言う。

「あら、一番の敵はあなただと思うわ…気をつけないと、けっ飛ばされるだけじゃ済まなくなるわよ」

 ふふっと目を細めて、ソウマを見た。
 すると、彼は眉を寄せて苦笑する。

「まったくだな、あいつの足グセの悪さときたら…」

 自分の足を見るのは、けっ飛ばされた記憶でもよみがえったのだろうか。
 ついハルコも、彼の足を見てしまった。

「もうちょっと手の方もな…」

 ソウマがぼそっと呟く。

 カイトが、恋をしたらあんなに奥手になるとは思ってもみなかった。
 家の中に引っ張り込むところまではよかったのだが、あまりに詰めが甘い。

「本当にねぇ…もうちょっと手がねぇ」


 ハルコは―― じっと、手を見た。
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