冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 血の気が溢れかえっていて、本当に殴りかかりそうな勢いだった。

 どこが…大丈夫なんだ?

 なぜ彼女が、この男をかばうのか、ジョウには分からなかった。

 虐待を受けているというのなら、はっきりさせていった方が、彼女のためなのである。

 混乱しながら、彼は必死に現状を整理しようとした。

 正確には、この二人の関係を把握しようとしたのだ。

 そうしている内に、事態は進む。

 買い物の袋を持った彼女から、その袋が奪われ、コンクリートに叩きつけられた。

 次の瞬間、二人の姿は派出所から消えた。

 慌てて追うと、バイクで逃走―― ではなく、走り去っていった。

 しかも。

 二人ともノーヘルで。

 いままでジョウは、長い間警察という職業に従事してきたが、こんな騒ぎは生まれて初めてである。

 喧嘩暴力迷子家出と、いろんなものを見てきた。

 いろんな事件が起きる。

 しかし、あの二人はどれにも似ているようで、どれとも違っていたのだ。

 ノーヘル。
 公務執行妨害もどき。
 婦女虐待(?)

 様々な違反と憶測がジョウの中で渦巻く。

 追いかけることは出来た。

 一応、派出所にはバイクがある。

 本署に通報して、追いかけてもらうことも出来る。

 しかし、あの必死なメイの目が、彼の動きを止めた。

 あんな怖そうな男に、彼女はついて行ったのだ。

 最後は、自分からバイクに乗っていた。

 何か、弱味でも握られているのだろうか。

 ついて行かなければならない理由があるのか。
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