冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトの顔色をうかがって、ビクビクする必要もない。

 不安そうな目をすることもない。

 それが、一番自然なことだった。

 いままで、カイトが無理矢理に彼女をカゴの中に押し込めていたに過ぎないのである。
 彼は、そのカゴの外にいた猫だったのだ。

 鳥は、猫に睨まれているようで怖かっただろう。

 しかし、猫は鳥が好きだったのだ。

 ずっとそこにいて欲しかった。

 そして、自分のために歌を歌って欲しかったのである。

 本当の歌声を、猫が聞くことはなかった。

 鳥は、小さなか細い声で鳴くことはあっても、最後まで猫に怯え続け、結局飛び去ってしまうのだから。

「お世話に…なりました」

 深々と頭を下げているのが分かる。

 そんなことは、しなくていい―― もう、怒鳴ることも出来なかった。

 けれども、これが最後だ。

 こんな理不尽な環境で、誰かに頭を下げるのは、これで終わり。

 カイトは顔をそらしたまま、部屋のドアが開く。

 身体が震えた。

 そのドアが、閉ざされる。

 それが。

 さようなら、ということだった。
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