冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「しかし、どういう訳か、片方の店が非常に営業成績がよく、もう片方の店と格差があったとします」

 頭の中では、ぽかぽか堂に行列が出来ていた。

 ほくほく亭は、主人が寂しそうな顔をして立っている。

「その営業成績のよい方の店を合併吸収する時は、たとえ基本資産が同じだとしても、もう一方の店よりも高い金額が必要になります。目に見えない付加価値があるからです…それを、営業権というのです」

 でも。

 ぽかぽか堂は、どこかの大きなチェーン店に合併されてしまった。

 店も新しくなって、お客も相変わらず来るのだけれども、内装も雰囲気も何もかも、ぽかぽか堂のものではなくなってしまった。

 ほくほく亭は相変わらず昔のまま、ほそぼそとお弁当屋を続けている。

 お客はそんなに多くないけれども、昔のままの味と雰囲気で。

 メイは、はっと我に返った。

 頭の中のお弁当屋に夢中で、シュウの言う言葉の意味を理解できなかったのだ。

 だから?

 もう一度首を傾げると、シュウの眉間にうっすらとシワが寄った。

 どうやら彼は、余りに察しの悪いメイに、不快な気分になったようだ。

「私には見えませんが、カイトにはあなたに営業権を支払うだけの付加価値を見つけたのでしょう。しかし、どうやら合併は失敗のようでしたが」

 シュウの言葉は、最後までよく分からなかった。

 ただ。

 他の誰にも見えない価値というものを、カイトが自分に感じてくれたのだろう、というような意味を言っているように聞こえる。

 そんなことは。

 頭の中のお弁当屋は吹き飛んでいく。

 確かにカイトは優しかったけれども、それは元々の性格なのだろう。
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