冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 たくさんのビールの缶が散乱していたのである。

 床や机やソファや―― あちこちに転がる缶。

 押し入れが開いていて、見ればそこにビールケースが入っている。
 一つは全部空で、二つ目のケースも残り少なくなっていた。

 ハルコは、慌ててケイタイを取った。

 何が起きたのか、事情を聞かなければならないと思ったのだ。

 カイトの電話番号を呼び出してかけるが、しかし、何度コールしても電話が取られることはなかった。

 しょうがなく番号を変える。

 鋼南に電話をかけて、秘書室に回してもらうのだ。

『はい、秘書室でございます』

 懐かしい声が出た。まだ、そこで頑張っているようである。

「お久しぶりね、リエさん」

『あら、ハルコさん?』

 彼女の秘書の後がまである。

 普通の神経ではあの社長にはついていけないので、とにかくしっかりした責任感の強そうな彼女を推薦したのだ。

「ところで…社長のケイタイがつながらないんだけど」

 何かあったの?

『故障されたそうで…今日の夕方にでも、新しいのが来る予定になっています』

 なるほど。

 ということは、ハルコがイヤで電話を取らなかったワケではないのだ。

「それじゃあ、社長につないでくださる?」

 事情が聞ける。

 ハルコはそう思って、次のステップに移った。

 夕方のケイタイが来るまで、待てそうになかったのだ。

『あの…別の日になさいません?』

 奥歯に何か引っかかったような物の言い方だ。

 それには、ハルコの方がひっかかった。

『誰からの電話も取り次ぐな、と言われているのですけど…様子も…』

 おかしいんですよ。

 リエは秘書だ。

 一番社長の側にいる人間である―― 会社では。

「それじゃあ、副社長につないでくださらない?」

 どうしてしまったのだろう。

 不安な心を拭えないまま、シュウへと電話を切り替えてもらった。
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