冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「お酒は、日本酒でいいですか? ここの日本酒、ホントにホントにおいしいんですよ」

 そんなにたくさんは飲めないんですけど。

 いきなり彼女は、そんな風に話しかけてきた。

 店に入るまでとは、全然違う雰囲気だ。

 それまでは、とにかく目的地に着くことだけを考えているような動きだったのに。

 いざ着いてみれば、何気ない感じに話しかけてくる。

「料理もおいしいの知ってますから、任せてもらっていいです?」

 そう言いながらも、彼女は強引にどんどんと女将にメニューを言う。

 何が注文されているのか、カイトにはさっぱり分からなかった。

 ただ。

 メイはひどく元気そうに、女将と雑談を交えながら話している。

 その横顔を見ていた。

 幸せそうに見えた。

 きっと、彼と離れて暮らしていた間も、つらいことなどなかったのだろう。

 いまの楽しそうな表情と、この店との関わりなどで、カイトはそう推測した。

 カイトの、知らない顔をするメイ。

 きっと、彼女の元々の性格はこうだったのだ。

 借金やカイトのような怖い男さえいなければ、物怖じしない明るい性格だったのかもしれない。

 離れていた時間というのは―― こんなにも人を変えるのだ。

 カイトが墜落していく中、彼女は楽しい人生に戻っていたのである。
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