冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 何、で?

 息が出来ない。

 胸がぐっと詰まって、彼の力で、呼吸をすることさえ苦しいほどだった。

 何で…抱きしめてくれるの?

 腕時計が、時間を刻む。

 一秒一秒、抱きしめられている時間を、確実に刻んでいく。

 次の一秒も、やっぱりその次も、間違いなくカイトの腕の中にいた。

 頭の後ろに、彼の吐息があった。


「好きだ…」


 髪の隙間から―― 声が降る。

 いや、降るなんて穏やかなものじゃない。

 もっとせつなくて息苦しくて、つらいかと思えるほどの声が押し付けられる。

 しかし、間違いなくカイトの声だった。

 いま…何て?

 動けなくなった。

 彼は、いま何と言ったのか。

 背中からメイを抱きしめて、髪の隙間に、一体どんな言葉を埋めたのか。

 身体が震えた。

 信じられなかった。

 子供の頃から使ってきた国語を、いきなり忘れてしまった気分だ。
 異国の言葉を聞いているようだった。

「好きだ、好き…だ…好きだ……きだ…」

 なのに。

 異国の人は、何度も何度も同じ言葉を繰り返した。

 まるで、その言葉しか知らないかのように。

 好きって。

 その言葉は、メイも使ったことがある。

 遠い昔じゃない。

 ほんの少し前、あの公園で確かに使った言葉だった。

 彼女は―― カイトに向かって、その呪文を唱えた。

 魔法の呪文だったのか、彼に抱きしめられた。
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