冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 昨夜。

 確かに。

 とにかく、カイトは落ちついて考えようとした。


「あ、おはようございます」


 しかし。

 その声が、彼を引き戻した。

 あ。

 一瞬、時が止まる。

 カイトは、ゆっくりと顔をそっちの方向に向けた。

 ストーブの上の、やかんの湯気の、もっと向こう側。

 振り返っている身体。

 窓から入る朝日に、銀色に透けている黒い髪。

 そこには――嬉しそうに、でも、ちょっとだけ恥ずかしそうに、にこっと笑っているメイがいたのである。

 夢じゃあ。

 カイトは、自分の頬をつねってみたかった。

 彼女がそこにいるということは、この見慣れない部屋に自分が寝ているということは。

 それは、昨夜起きたことが全て夢じゃないと、宣言しているのと同じことだった。

 夢じゃあ、なかった。

 昨日、再会したのも。
 一緒に居酒屋に行ったのも。
 公園で、手をぎゅっと握られたのも。

 この部屋で。

 とにかく、全部。

 夢じゃなかったのだ。

 しかし、まだカイトはそれを実感できなかった。

 彼女までとの距離が、もどかしかった。

 慌てて彼は、ベッドから飛び降りてメイの元に向かおうとしたのである。

「きゃあ!!!」

 それは――彼女の悲鳴で遮られた。

 ぱっと逸らされる目。

 いやもう、それは身体ごとだった。

 彼女は身体ごと、向こうを向いてしまったのである。
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