君を探して
「もうやめときなよ」

そう言ってくれたのは、隣のクラスの子だ。

「だって!」

「エリナだって悪かったんだからさぁ」

「でも、どうして慎先輩がやめて、深月先輩だけが残れるんですか?」



「確かに図太いよね-」

明らかに悪意のこもった声。

「深月先輩は被害者じゃん。慎先輩をエリナにとられたんでしょ?」

ヒソヒソ声。

「うわー、悲惨。私なら耐えられない!」

クスクス笑う声。


さっきまで鳴り響いていた楽器の音なんて、なにひとつ聞こえなくなっていた。


私が楽器を手に取り、くるりと振り返ると、そのざわめきは一瞬にして止まった。

そのかわり、みんなの視線が痛い。


あーもう面倒くさい。

やっぱり帰ろう。


私は一度手にした楽器を棚に戻そうと、再び向きを変えようとした。


その時だった。

「うるさいぃぃっっ!!」

という大きな声。

「オレの慎先輩と深月先輩を悪く言うな!!」


部室の入り口には、トランペットを片手に持ったタケちゃんが立っていた。
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