君を探して
「ねえ、東雲」

まだ名残惜しそうに携帯を見つめたままの東雲に、私は聞いた。

「東雲って、他の人のフリして誰かとメールしたこと、ある?」

「ええええぇぇっ!?」

東雲は腰を浮かせて、大げさに驚く。
もう、なんなんだー。

「ほら、男の人って、女のフリしてメールしたりするんでしょ?」

「ぶはぁぁ」

東雲のこの混乱っぷりを見ると、経験ありだな……。

最初は、男の人が素性を隠してメールをしようとする心理が知りたいと思っただけなんだけど、東雲の反応を見ていると、私の中のイジワル心がムクムクって大きくなっちゃって。

私はイジワルな質問を続けた。

「ねぇ……どうしてそういうことするの?」

「いやぁ、僕にはなんのことだか、さっぱり!!」

「相手を騙すわけでしょ? 悪いとか、思わないのかな?」

「わ、わ、わ、悪いことだなんて、一概には言えないんじゃないかと!!」


……会話が進まないんだけど。


そこでチャイムが鳴って、それと同時に担任が入ってきた。

滝田先生は、教室のほぼ真ん中の席で真っ赤な顔をして立っている東雲の姿をみて、

「……なにテンぱってるんだ、東雲。早く座れ」

と呆れ声で言った。


東雲はぎゅっと携帯を握り締めて、静かに座った。


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