君を探して


……。


合奏が始まる前のあのウキウキ感はどこへ消えたんだろう。

部室には滝田先生の怒号が響き渡っていた。

そして、その標的は、私たちトランペット。


「何やってんだお前たち! 楽譜を見てるのか? そこはもっと強く!」

「深月、早すぎる!」

「タケ、もっとしっかり音を出せ! なんだその音は」

「慎、全然合ってないぞ! お前たちちゃんと練習してきたのか!?」


……確かに私たちは練習不足だった。

私と慎は最近ずっとあんな感じだし、タケちゃんもサボり気味で、パート練習すらろくにできていない。

滝田先生は、ほんの数分の演奏で、そんな私たちの状態を見抜いてしまったのだ。

「ふさけるな!」

教室ではあんなに穏やかな先生だけど、音楽のことになると容赦しない。

頬を紅潮させて私たちの練習不足を叱り続ける。

他のパートは、みんな顔をこわばらせて、各々の楽譜をじっと見ている。

いや、見ているふりをして、火の粉が自分たちにふりかからないようにと祈っているのだ。

ふと、息を詰まらせる部員の中、最前列で、クラリネットを胸の上で抱きしめ、目に涙をためてこちらをみている女と目が合った。

沢崎エリナ……。

目が合ったと思ったのは間違いだった。
エリナが見つめているのは私じゃなくて、隣の慎だ。

慎は気づいているのかな……?

「深月、聞いてるのか!? もう一度頭から全員でやり直しだ!」

「はい! すいません!」

滝田先生の怒鳴り声に、あわてて返事をする私。

「構え!」

滝田先生がタクトを振り上げると、部員たちは瞬時に楽器を構えた。



厳しい練習はそれから何時間も続けられた。



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