シーラカンスの唄


「はい。おみやげ。」

二人で水族館を一周した頃、重樹がポンと私に包みを渡した。

「これ…?」

「好きでしょ、あげる。」

一瞬、翔からもらったプレゼントを思い出した。


包みを開けると、シーラカンスのポストカードがあった。

「…ありがとう。」

私の事を想ってくれたモノだから嬉しいはずなのに。
どうしてだろう。

何の唄も私には届かなかった。


(翔にもらった時は何かが聴こえたのに…。)


比べるわけじゃない。

だけど、翔は…私の欲しいモノをくれた。
それはカタチじゃない。
言葉にはできない気持ち。

翔は、いつもそうだった。

「……帰ろうか?」

黙ったままの私を見て、重樹はそう言った。


帰り道。
懐かしい好きだった曲はほとんど耳に入ってこなかった。


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

シーラカンスは深い海で唄う。

誰にも気付かれない場所で。
大事な人を想って。
心からの想いを込めて。

届かなくても伝わる事を祈って…

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

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