きみらしさ
音楽室に向かう由依の後ろ姿を見送って、俺も部室に向かった。

「お、春樹だ。今から部活?」

「あぁ、稲田か。」

急に姿を現した稲田に驚いた。

もしかしたら告白を聞かれていたかもしれないと思った。


「こんなところで何してたんだ?」

「告白。」


え、マジ?!


あまりに大きな声で叫ぶものだから慌てて稲田の口を押さえた。

「マジマジ。」

「花崎さんだっけ。彼女になってくれるって?」

「ひとまず"仮"だけどな。」

「なんだよ、"仮"って。」


稲田に一通り事情を説明した。

「モテる男は大変だな…。」

やけに同情の籠った声で、俺の肩をポンポンと叩いた。


「春樹さ、気をつけてあげろよ。」

真剣な稲田の目に、少しだけ戸惑った。

「何に?」

「お前のファンの女の子たち。女の嫉妬って怖そうだし、花崎さんってそういうの免疫なさそうだろ?」


この時稲田が言ってくれなければ、俺は由依の不安にいつまでも気付けなかったかも知れない。
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