きみらしさ
吹奏楽のことはよく分からなかったから、由依が舞台上のどのあたりで演奏するか全く見当がつかなかったけど、俺が座った位置からちゃんと顔を見ることが出来た。

音は耳に入って来なかったかも知れない。


指揮者を見る真剣な由依の眼差し

音楽を楽しんでいる柔らかい表情

軽快に動く指先


そんなところに集中していた。


あの時のように、振付が少しあるらしく何度か手を広げたり立ち上がったりする由依。


周りとの息も合っていて、相当練習を積んだことが分かる。

きっと由依のことだから、練習中に振りを間違えたり隣の人にぶつかってしまったりしたことだろう。

ひとつひとつの振りが終わる度に、喜びの笑みを見せる由依に、俺自身も笑っていた。


少し前までは分からなかったけど、何度か由依に聞かせてもらってクラリネットの音を覚えた。

いろんな楽器の音が交ざり合う中で聞き分けられる自信はなかったけど、由依の指の動きや呼吸を見れば、クラリネットの音を確かに捉えることが出来た。


由依のように優しい音。

心の奥まで沁みてくるような音。
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