きみらしさ
えーっと…

お!

観客席を見ていた稲田は由依を見つけたらしく、勢いよく俺に振り向いた。

「可愛い子じゃん!そっか、春樹ってああいう大人しそうな子が好きなのか!」

稲田はやけにニヤニヤした顔をしていた。

「で、カッコいい所見せて告白しようって?」

「は?」

「好きなんだろ?告白するんだろ?」

「いや、…考えてなかった。」

この時はまだ由依と話したことはほとんどなかったし、正直この気持ちが『好き』と言って良いものなのかも定かじゃなかった。


もっと知りたい

もっと笑って欲しい

もっと近付きたい


ただ、それは『好き』だから抱く感情だときっと心の隅の方では分かっていたはずだった。

そうでなければ、稲田が由依を『可愛い』と言っても何も感じなかったはずだから。
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