Underground-アンダーグラウンド-
第一章 《黒髪》


 一体、幾度目の秋だろうか。
塒とする樹海に吹き始めた木枯らしに
顎の根元、鰓辺りから伸びる長い鬚を靡かせ
巨大な黒龍はその冷たさに身震いする。
ふ、と天を仰げばどんよりとした曇り空が
今にも滴を垂らしてきそうな
匂いを漂わせていた。

――黒龍の名はレグナ。

長くしなやかな身体は漆黒の鱗で覆われ
朝露の様な独特の光沢を放ち、
後頭部から龍には珍しい
翼の生えた背を通り尾へと続く
豊かな鬣は春の若葉を
思わせる淡い翡翠色。
憂鬱そうに半開きにされた眼は
秋の稲穂に似た金色の光を放ちながら、
夕方の風に舞い散る土色の
木の葉を視界に入れていた。

ほう、と息を吐くと
身体を取り巻く冷気の中に
白い気体が立ち上っていく。
拡散する吐息に視線を移し、黒龍は
ゆっくりととぐろを解いていった。
丸まり、強張っていた背骨を伸ばす。
四肢が地面に着くと枯れ枝を踏んだのか、
ぽきりと乾いた音が辺りに響いていった。
…そろそろ行かなくては。
もうすぐ夜がやってくる。
深い深い闇の世界。朝日が昇る
その時まで、黒龍には
成さねばならぬ役目があった。


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