毎日がカレー曜日2
「E値を落とすってことは…」

 強い感情が、しゅぅっとしぼんでいく映像が浮かんだ。

「そう、やる気がなくなる。どうでもよくなる。いわゆる、引きこもりの精神状態ができる」

 珍しく、孝輔が立て板に水の勢いで、セリフをまくし立てた。

 引きこもり、というものに、何か恨みでもあるかのように。

 一瞬だけ、心の傷が垣間見えた気がしたが、サヤは触れないほうがいいと感じた。

 だが、疑問もある。

「でも、何故ですか? E値を落とすより、S値を落とすほうが早いでしょうに」

 元々、彼らの仕事は消去だ。

 サヤと合う合わないは別にして。

 孝輔は、ふと唇を閉じて黙り込んだ。

 その唇が、ゆっくりと開く。

「機械好きなだけなら…悪ささえしなけりゃ…別に消さなくてもいいだろ」

 ぽつり、ぽつり。

 自分のそんな気持ちに、戸惑いが含まれるのを隠せない言葉。

 あ。

 しかし、それはサヤの心にあたたかく染み渡った。

 命、とは違う領域にある人外のものに、孝輔が見せた優しさが伝わるのだ。

「そーかそーか」

 そのあたたかい感情を、サヤがゆっくりかみ締めるより先に。

 孝輔の背後に、黒い影が落ちた。

 直樹が仁王立ちになりながら、手袋をゆっくり外す。

 その手袋は、まだうごめいていた。

「アニ…!」

 嫌な予感を感じてか、振り返ろうとした孝輔の首ねっこが掴まれる。

「そんなに好きなら、仲良くするがいい」

 シャツの襟を後ろにぐいっと引っ張り、直樹は弟の背中に手袋を投げ入れたのだ。

「……!!」

 目を白黒させ、孝輔は声にならない悲鳴をあげる。

 彼の背中で、手袋がぐにぐに動いているのだ。

「私をハメた罰は、こんなもんじゃすまんぞ!」

 ハッハッハッハ。

 直樹は――相当、ネに持っているのだ。
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