言葉にしなきゃ伝わらない。

世界の陰


美月side



1年前のある日、両親と大好きだった妹を失った。


交通事故だった。





たまたま、買い物について行かなかった私が、のんびりとテレビを見ている時。


テレビの音を遮るような大きな着信音が家じゅうに響き渡った。




少しめんどくさそうに、受話器を取り


「――もしもし、安岡ですけど...」


『――こちら、今吉警察ですが...国道49号線で大規模な交通事故があり、安岡良明さん、安岡由香さん、安岡美奈子さんが亡くなられました。他にご家族は、いらっしゃいますか?――――...』




ガシャン...


手から受話器が滑り床に落ちる虚しい音が響く。


途端に頭が真っ白になって、目の前にあったリモコンを思いっきりテレビに投げた。






――小学4年生にして、最愛の家族を亡くした最悪な日。

私は・・・この日を一生忘れない。






そうして、お葬式が開かれ。初めて冷たくなった家族を見た。


怖かった....冷たかった....泣きそうだった。



でも、私は泣かなかった。


親戚中に同情され“可哀そうな子”を見つめる独特の冷ややかな目。



ただうつむいて目を合わせないようにしてた。




お香の匂いと木魚の寂しい音。薄暗い明り。


段々、鼻の奥がツンとして目頭が熱くなった。


でも、私は泣かなかった。



最前列に座って、ただ前だけを見つめていた。


弱さを見られたくなかったんだ。





“人の死”なんて考えた事も無かった。


ただ、悲しんだろうな...と、これくらい。



身近に無かった“人の死”が、今・・・目の前にある。







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