猫かぶりな男とクールな女

君の夢




― 明け方


自宅のベッドに身を投げ出した途端、睡魔がおそってきた。


なんだかんだで、朝の5時まで飲んでしまった…
後半は眠気と胸やけのせいで、ほとんど遥と夏帆の会話をただ聞いているだけだった。



大した話はしなかった。

9月から年末まで婚礼予約が立て込んでいて、二人とも大忙しだとか…仕事の内容がほとんどだった。
蒼介が雑誌社に勤めている事を明かすと、夏帆は驚いた顔で『へぇ…』と声を漏らしたが、それ以上は何も言わなかった。



遥がやたら楽しそうに話すものだから、夏帆もそれにつられて時折笑いながらそれに応えていた。
やはり、蒼介と夏帆が直接会話する事はなかったが…出会った時から感じていた夏帆との間にある壁が、少し薄くなったように思えた。






「会うのは最後……か」


悶々とした気持ちを余所に、枕に顔を埋めて目を閉じると、意識を失うように深い眠りにおちていった。






****

ブブブブッ ブブブブッ……ブッ


「……………」

心地よい眠りを妨げたのは、やはり…あのバイブ音。

ここ最近、この鈍いバイブ音をきっかけにハードスケジュールを余儀なくなれていた蒼介は…

重い瞼を少しだけ開け、携帯の電源ボタンを力いっぱい連打した。




『着信 春日部美奈子』





と表示された画面がプツリと消える。




朦朧とする頭を持ち上げ、ベッドの脇に置かれた時計に目を凝らす。




「17時………」



我にかえり、恐る恐るカーテンをめくると、悪天候な事もあり、外はすでに薄暗くなっていた。







< 37 / 93 >

この作品をシェア

pagetop