ひつじのあたま
「あ、ちょっと俺、夕飯の買い物してくるから。花穂ちゃん、くつろいでていいからね。ヒカル、花穂ちゃん頼むよ」
「りょーかいっ」
ヒカルの元気のよい返事に満足そうにうなずいて、悟さんは出かけていった。
二人きりで残された私達は話題もなく、気まずい沈黙が流れた。
どうしよう。なにか話しかけたほうがいいのかな。
ヒカルがテレビをつけ、チャンネルをくるくる変えて、おもしろいのやってない、と言ってまた消した。
「食べる?」
おせんべいを勧められたけど、首を横にふった。
「サト兄、いまけっこう仕事忙しいらしいんだ。今日は休みだけど、明日の朝は早いみたい」
「へえ…」
じゃあ、貴重な休みが私のせいで潰れちゃったんだ。悪いことしたな。
「花穂さ、今日泊まってくんだろ?」
「え…あの」
部屋に戻ってインターホンを押したときには、傘を借りたらすぐまた出ていくつもりだった。けれど、なぜかヒカルの問いに即NOとは言えなかった。
迷い始めていた。案外ヒカルが話しやすいやつだと感じ始めたからかもしれない。
別に、悟さんとヒカルのところだったら泊めてもらっても大丈夫かも…。
「あれだよな、お前も冬休みなんだから学校行かなくていいんだろ?」
「まあ、そうです」
「…じゃあさ」
ヒカルがこたつに乗り出すように体を傾けた。私達の距離が縮まる。
「ずっとここにいろよ」
キザな言葉。ふざけているのかと思ってヒカルの顔を見ると、真剣な瞳が私を見つめ返してきた。口は固く結ばれていて、さっき浮かんでいた薄ら笑いは跡形もない。
「あの…?」
戸惑いながら声をかける。
長く見つめられるのが恥ずかしくて、私はうつむいた。
「…なんてな!」
「え?」
明るい声に顔を上げると、ヒカルは最初と同じににやにやと笑っていた。
「まあ、うん。俺にもサト兄にも遠慮すんな。好きなだけいろよ…って俺の部屋じゃないけど」
そう言ってヒカルが立ち上がった。
「どこ行くの?」
「…お前も一緒に来る?」
「えっ!行きたい。どこどこ?」
「便所」
近くにあった漫画を投げ付けると、ヒカルはそれをうまくかわして部屋を出て行った。
「りょーかいっ」
ヒカルの元気のよい返事に満足そうにうなずいて、悟さんは出かけていった。
二人きりで残された私達は話題もなく、気まずい沈黙が流れた。
どうしよう。なにか話しかけたほうがいいのかな。
ヒカルがテレビをつけ、チャンネルをくるくる変えて、おもしろいのやってない、と言ってまた消した。
「食べる?」
おせんべいを勧められたけど、首を横にふった。
「サト兄、いまけっこう仕事忙しいらしいんだ。今日は休みだけど、明日の朝は早いみたい」
「へえ…」
じゃあ、貴重な休みが私のせいで潰れちゃったんだ。悪いことしたな。
「花穂さ、今日泊まってくんだろ?」
「え…あの」
部屋に戻ってインターホンを押したときには、傘を借りたらすぐまた出ていくつもりだった。けれど、なぜかヒカルの問いに即NOとは言えなかった。
迷い始めていた。案外ヒカルが話しやすいやつだと感じ始めたからかもしれない。
別に、悟さんとヒカルのところだったら泊めてもらっても大丈夫かも…。
「あれだよな、お前も冬休みなんだから学校行かなくていいんだろ?」
「まあ、そうです」
「…じゃあさ」
ヒカルがこたつに乗り出すように体を傾けた。私達の距離が縮まる。
「ずっとここにいろよ」
キザな言葉。ふざけているのかと思ってヒカルの顔を見ると、真剣な瞳が私を見つめ返してきた。口は固く結ばれていて、さっき浮かんでいた薄ら笑いは跡形もない。
「あの…?」
戸惑いながら声をかける。
長く見つめられるのが恥ずかしくて、私はうつむいた。
「…なんてな!」
「え?」
明るい声に顔を上げると、ヒカルは最初と同じににやにやと笑っていた。
「まあ、うん。俺にもサト兄にも遠慮すんな。好きなだけいろよ…って俺の部屋じゃないけど」
そう言ってヒカルが立ち上がった。
「どこ行くの?」
「…お前も一緒に来る?」
「えっ!行きたい。どこどこ?」
「便所」
近くにあった漫画を投げ付けると、ヒカルはそれをうまくかわして部屋を出て行った。