不思議書店
「私の名前は『香』(こう)と申します」

少女、香は少年に茶を差し出しながらそう名乗った。

「ここは呼ばれたものだけが来れる本屋でございます。ゆえにアナタは呼ばれてここに辿り着いたのです」

薄く微笑む香の顔を見て、少年は頬を赤らめた。

黒く艶のある長い髪に真っ黒な瞳。

肌は透けるように白かった。

「アナタの名は?」

「えっと・・大谷良介、小学5年生です!」

緊張しているのか、言葉に力がはいってしまう。

そんな良介をみて香は微笑む。

「この本屋、お気づきかもしれませんが、どの本も題名、著者名ともに何もかかれておりません。
 中身は白紙です」

言いながら香は近くにあった本を広げ、良介に見せた。

確かに何処にも何もかかれていない本だった。

「なんで?本屋なんでしょ?」

「この本屋は普通の本屋ではありません。この本屋はその人だけの本がある本屋なのです」

いうと少女は立ち上がり店内を指差す。

「アナタだけの本がこの店のどこかにあります。既にアナタは場所を知っているはずです。
 まずはその本を探し出してください」

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