狂想曲

愛憎



そこに足を踏み入れるのは、実に一ヶ月以上ぶりのことだった。

だけども感慨に浸れるわけもなく、私は部屋に入るなり奏ちゃんに突き飛ばされ、床に投げ出された。


かつて私たちが一緒に暮らしていたはずのそこは、なのにすっかり男のひとり暮らしの匂いしかせず、今の奏ちゃんと同じように、荒れていた。



「……奏ちゃん」


ゆらり、と、奏ちゃんの目が私へと落とされる。

私は、声を震わせながら言った。



「私たち、本当は兄妹でも何でもなかったなんて、嘘みたい」

「嘘じゃないよ。だから、俺が律を愛してることは背徳でも近親相姦でも何でもない」


奏ちゃんはひどく冷たい目をしていた。



「ずっと苦しかった。死ぬほど苦しかった。律のために“いいお兄ちゃん”を演じてる自分には、ヘドが出そうだった」

「………」

「律を悲しませたくなかっただけなのに。だから、俺はずっと律と“血の繋がった兄妹”のままでいようと思ったのに」


奏ちゃんは、そしてふっと顔を歪め、



「でももう、そんな必要はないもんね」


私の首を左手ひとつで鷲掴む。

いつかの想像がデジャブとなって、身がすくんだ。


奏ちゃんの手がこんなにも大きなものだったなんて、今まで知らなかった。



「律に近付く男はみんな死ねばいいって思ってたよ。律が大切にしてた人形にさえ嫉妬して、ぐちゃぐちゃにして捨てるくらいにね」

「……っ」

「可哀想に。クズみたいなキョウの手垢に汚されて。俺と律の世界を壊したあいつも、川瀬と同じように死ねばいいんだよ」


憎々しげに吐き捨てる奏ちゃん。
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