狂想曲

錯乱



気付けば10月になっていた。



「律さぁ、何か痩せたよね」


百花はパスタをフォークに絡めながらに、上目に聞いてきた。

私は「そうかなぁ?」と首をかしげる。



「でも、めちゃめちゃ食べてるよ。最近は、食べ過ぎだってキョウから怒られるくらい」

「………」

「けど、ほら、私病み上がりでずっとまともなもの食べられなかったじゃない? だからご飯が食べられるって幸せだなぁ、って思っちゃって」


私はハンバーグのセットを頬張る。


きっと、体は食事を欲しているのだと思うし、単純にご飯は美味しいと感じる。

ただ、私の心が、吐くことを求めているだけ。



「いや、でも痩せたよね」

「あれじゃん? 私、毎日昼間、職探しとかで動いてるから、カロリー消費してんのかも」


食べても吐いているからだ、とは言えなかった。

吐くという行為はどうしてだか後ろめたくて、だから誰にも言えなかった。


怒られるんじゃないかとすら思えてくるから、いつも私は適当なことを言って誤魔化してしまう。



百花はそんな私をじっと見据え、



「最近、律、飲みに行こうって言わなくなったよね」


ぎくりとする。


今までは、酒を飲むことでストレスを発散させていた。

けれど最近は、私の頭には吐くことしかなく、吐くために飲むようなものなので、外に飲みに行こうとは思わなくなっていた。



「だからそれは、病み上がりだからだってば。あと、プーなのにそんなに飲み歩けないでしょ」


私はまた笑って誤魔化した。

百花はそんな私をまだ凝視したまま、「ふうん」と意味深な相槌を返してくるだけ。


まるで針のむしろみたいだった。
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