狂想曲
キョウは私に、中に入るようにと促した。



リビングに行って驚いた。

窓辺には私の身長より少し低い観葉植物が置かれていたから。


部屋のインテリアにさえ無頓着そうなこの人が、わざわざこんなものを買っただなんて到底思えなかった。



「それ、“幸福の木”っていうんだって」

「何それ?」

「知らない。でももらったから、枯らすわけにはいかないし」


太く伸びた幹のテッペンに、淡い緑のパイナップルの葉みたいなのが生えている。

キョウはその葉に触れた。



「俺に幸せになってほしいんだって。こんな木が俺のこと幸せにしてくれんのかよ、って感じだけど」


誰にもらったの?

なんてことは聞けなかった。


キョウは誰かを思い出したような顔でふっと笑う。



「でもまぁ、俺みたいな人間を心配してくれる人もいるんだって思うと、それなりに嬉しかったりしてさ」

「………」

「だから、そういう気持ちとかは大事にしとかねぇとバチ当たるじゃん?」


私だってキョウのことを心配しているのに。

そう思うとこの木のことが少し憎らしく見えて。


私は無視してソファに座り、ひとり缶ビールのプルタブを開けた。



「おいこら、何勝手に飲んでんの」


キョウは上から私の缶ビールをひょいと奪う。

「あっ」と声が漏れ、「もう」と怒りながら顔を上げた瞬間。


代わりとばかりにキョウの唇が降ってきた。



「あんたほんとに飲むためだけにここにきたの?」
< 83 / 270 >

この作品をシェア

pagetop