Maria ~私の心を貴方に捧ぐ~
堀口先生は思い出したかのように、紙袋からコーヒーを取り出し俺たちの前に置いた。



『良かったらどうぞ』

「…ありがとうございます」



音葉はそのコーヒーを両手で包み込むように持ち上げ、飲むのではなく温もりに縋っているようだった。


まるでコーヒーの温もりが心まで温めてくれるとでも思っているかのように。



『心臓を提供してくれた人の親族にお礼が言いたいって言ったんだって?』

『はい…院長先生からは断られてしまいましたけど』

『今でもそう思っているの?』

『はい』



ドナーの親族には基本的には会ってはいけない事になっているのは知っていた。


ダメ元で院長先生にお願いしたけど、やっぱり答えはノーだった。



『その時は院長先生はまだ何も言えなかったから断ったんだよ』

『どういう意味ですか?』

『成瀬君に心臓を提供してくれたのはまりあちゃんだよ』

『「…えっ」』



俺と音葉は同時に言葉を失った。


堀口先生が何を言っているのか頭が理解してくれない…しようと、してくれない。





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