天体観測
「宇宙か。素敵なとこやね。私は司の家やったから」

「十分、素敵な場所じゃないか」

僕らは笑い合った。何故笑いが出たかわからない。ただお互いが見た不思議な夢を、共有し合ったことが心底おもしろかった。

「で、どうするんだ?決めたんだろ、どうするか」

僕は、あえて初めから答えの出ている問いを、恵美に投げかけた。

「うん。決めた。隆弘には……悪いことしちゃうな」

「大丈夫。今まで見舞いをサボってた俺にすら『気にしてませんから』って言ってくれたから、迷いに迷って出した答えなら隆弘は恨んだりしない」

「そうやね。ホンマは、夢を見るまでは、隆弘のそばにいるつもりやった」

恵美は泣き出した。その声は、都合よく滝の轟音にかき消された。

「でも、司が言ってくれた。『このままでいいわけない』って、『俺は二人に背を向けれない』って。私、司は私が思ってる以上に私たちのこと考えてくれるんやなって思ってん。そんな司の気持ち……裏切れない」

恵美の言葉を聞いた僕は、少し顔が赤くなった気がした。改めて言われると、かなり恥ずかしい。

「わかったから泣くな。泣かれると困るんだよ」

「なんでよ」

「隆弘が言ったんだ。恵美はビビりで泣き虫だって。だから俺、あいつに任せろって言った」

恵美は泣きながら僕の顔を下から覗き込んだ。

「だから泣くなよ。隆弘に示しがつかない」

恵美は「うん」と言ってジーンズのポケットからハンカチを出して、涙を拭った。

「じゃあやるか」

「うん。たった一日で出した答えやけど、これ以上の答えは出ない」

「後悔しないな?」 

「うん。やろう。私たちで……犯人捜し」

恵美は犯人捜しを決断した。今度は僕が、決意を固める番だ。

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