懐古の街

「引っ越してきたばかりで、飲み物が何にもないから買いに行かないと…皐月さん喉が痛いだろう?」


そう言って玄関を出て飲み物を買いに出ようとする俺の服の袖を掴んで彼女も泣き腫らした目を擦りながら後ろを、トボトボとついてきた。

このボロアパートを出てすぐの道に自販機があったハズだ。

新しいく来たばかりの田舎の道を皐月さんと二人で歩いて行く。



道行く人々は新参者の俺に挨拶をして通り過ぎて行くけど、やっぱり皐月さんの存在には気付いていないみたいに過通りして行く……。

皐月さん……ずっとこんな調子で、寂しかったんだなあ……。
程なくして自販機に着いた俺は、コーヒーを買ってから彼女に飲み物は何がいいか聞いて、小銭を手渡した。

彼女は、しみじみと書かれた温かい緑茶を買った。


「この緑茶の缶、座布団に座った招きネコが、えれぇ可愛いべなぁ。人間の飲みもん口にするのは随分と、久しぶりだなや。」


……俺はそんな彼女の屈託の全くない、無邪気な笑顔をみて、皐月さんを、心から初めて可愛いと…・・・そう思ったのだった―――


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