懐古の街

押し入れのふすまを開けて布団を抱えて入れようとした、その時……

「…わぷっ!」

な、なんだ?!

今、女の子の声が……?

「…わだす、お邪魔ですたか?」

……小豆色の和服を着た女の子だ。

長い黒髪の地味な着物を着た、ぽけっとした雰囲気が可愛らしい、17、8才の若い女の子が……

見た感じからして、 大和撫子と言った感じの大人しそうな…

引越し業者に頼まずに全て自分で家具を運び込んで、節約したのが仇になったのか……

俺は自分が思っている以上に疲れているらしい。うん。

一人暮らしをする為に、家賃1万ぽっきりで借りた誰もいないハズの部屋に、女の子がいる訳ないよな?

これは、幻影か、幻覚かなんかだ。

またふすまを閉じて開ければ、女の子の幻覚も消えるだろう。

そうに違いない……


開いたふすまをまた閉めてから、深呼吸。

吐いて、吸って、吐いて、吸って、また吐いて……
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