一人睨めっこ
第五章 愛してるよ

一節 一人

『やめろ!! やめろ!!』

 俺はやめない。

『嫌だ!! 消えたくない!!』

 俺はやめない。

『一人は嫌だっ!!!!』

 俺は――

「一人……?」

 手を止めた。

『お前みたいな奴にっ、平々凡々に暮らしてきた奴に……ずっと一人だった俺の気持ちなんか分からねぇよ』

「………………」

 平凡で、地味で……
 特別な事も無く退屈に生きてきた……。

 それは
 凄く幸せな事なのか?

『いつも思ってた……俺がお前だったら良かったのにって』

「っ!!!!」

 何故か、良心が痛んだ。
 多分この手で魂を潰してしまえば……こいつは消える。
 俺もその内消えるが。

 潰してしまったら……こいつはずっと一人のまま消えてしまうのか?

 愛も、友情も、家族も、知らぬまま。
 触れる事も無いまま。

『真琴……?』

 淳と真奈美が、水の中に手を入れたまま動かない俺を心配そうに見る。
< 121 / 130 >

この作品をシェア

pagetop