一人睨めっこ
 私は思わず家に戻った。

「なんで?お母さん……」

 そう呟きながら。

 ――母さんがいいよって言ったら――

 いいよと言われていないのに……。

 私は玄関のドアを開けて、叫んだ。

「お母さんっ!!!」

 リビングから声が聞こえてきた。
 声はどんどん近づいてきて、目の前まで来た。

『何だこいつは!! 餓鬼が居るなんて聞いてないぞ!?』

『違うのよ誠人、これは――』

『もういい、帰るから』

 誠人と呼ばれた男性は、荒々しく玄関のドアを閉め出ていった。

 車のエンジン音が聞こえ……遠ざかっていった。

『誠人――ったくあんたは!!』

 お母さんは、今まで見たことないような顔で怒っていた。
 私はその時、ようやくあの約束を思い出した。

「あっ、ごめんなさい――でも――」

 お母さんが一人暮らしって言ったから……そう言おうとしたけど、お母さんの怒鳴り声が先だった。

『全く!! やっぱりどこの父親か分かんないような子産むんじゃなかったわ!!!』

 え――?
 お母さん――――?


 そっか……。
 そういえば私にはずっと、お父さんって呼べる人が居なかった。
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