【完】そばにいるだけで



「えっと……これ」



わたしはブックカバーを外して、桐生くんに表紙を見せた。



「へぇ」



桐生くんは表紙を見て、それだけ言った。



ただの恋愛小説だったので、恥ずかしくなった。



「桐生くんは何を読んでいるの?」



とっさにそう聞くと、桐生くんもブックカバーを外してわたしに表紙を見せてくれた。



それは、授業で習うような文豪の名作だった。



思わずため息が漏れた。



読んでいるものにさえ、格差を感じた。



「難しそうだね」



と言うと、



「正直、ここまで読んでも良さがわからない」



と言って、笑った。



わたしはその表情に、一撃で撃ち抜かれてしまった。





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