独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
『…ID照合完了。アリス・ブランシュ様。軍緊急回線をご使用なされますか?』

「はい」

『――御用件をお願いいたします』

「レイ・シャーナス准将に繋げてください」

『お待ちください。――現在、シャーナス准将は、パンドラ第1エリア国立高等学園前に待機中。妨害電波のため通信が不可能です。復旧までには30分ほどかかります』


 ――この音声、古いな…もしかしたらもう使われてない回線かも?
 
この様子なら…レイの所に届くまで時間がかかるかも…。


「なら仕方ないです。私はパンドラ第一エリア国立高等学部内に居ます。現在の状態を説明します。実行犯は2名以上。犯人は一時間ごとに一人殺害すると脅迫。要求は…以前パンドラのシステムの一部を落とした元天才科学者。生徒は個室にロックをかけられ、中枢システムも乗っ取られているみたいです」

『頂いた情報は指揮に当たっている者に伝えておきます。ご協力ありがとうございました』


 ――後で私の本当のIDをメインの方に認証させて共有させないと…此処に入った事がバレちゃうかなぁ…。

まぁ、入った時のリザさんの使用履歴だけ消して、適当にごまかすことも可能だろう。

テロリストさんが開けていたみたいで、私も軍回線があるって噂に聞いていたからまさかと思って…とかなんとか。

薬品が置かれている戸棚には劇物とも言われる薬品が並べられている。

その奥の冷蔵庫の様な形状のものには、同じく毒物と思われる瓶が丁寧にラベルを張って置かれていた。

カシャンとガラス同士が共鳴するように、華奢な音が部屋を包み込んだ。


 ――もし見つかって殺されそうになったら私の正体をばらしてしまおう。


捕まるのは最後の手段と決め、“使えそう”な薬品の瓶をテーブルの上に集めていく。

無機質なガラスの擦れ合う音と、私の戸棚とテーブル周辺を行きかう足音だけが部屋に響いた。


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